きっかけはタイ vol.27
タイから繋がるライフストーリー
山田大貴 さん
◆シーカー・アジア財団職員
移動図書館で利用者と
無国籍の子どもたちの
教育支援に力を入れたい。
Q あなたにとってのタイとは?
優しさと
魅力あふれる場所
Takahisa Naito
1992年愛知県瀬戸市出身。近畿大学総合文化研究科文化・社会学専攻修士課程在籍時に休学し2018年3月、バンコクのシーカー・アジア財団国際部へ入職。約1年半、教育支援事業や訪問者受入れ業務に従事。復学と論文執筆のための休職期間中にコロナ禍に突入し、半年間を予定していた一時帰国が3年半に延長。2023年6月に復職がかない2度目のタイ勤務に。クロントイ・スラム内にある財団事務所の部屋を借りて生活しており、真の在宅ワーカーとして奮闘中。近所の屋台料理と保護した黒猫が日々の癒し。
- どのような経緯でタイに?

 近畿大学の修士課程2年の時に担当教官の秦辰也先生からバンコクのシーカー・アジア財団で働く話をいただき、休学して2018年にタイに来ました。秦先生はシャンティ国際ボランティア会の副会長も務めていらっしゃって、長らくタイでボランティア活動を牽引してこられた方です。

 高校のときの同期がJICA海外協力隊でアフリカに行って活動した話を聞いて、海外でボランティアをしてみたいと漠然と思っていましたが、国際協力について勉強したわけではありませんし、国内でもボランティア経験はありませんでした。当初はタイで困難な状況の子どもたちと出会って、努力している彼らの少しでも力になりたいという思いだけでした。

無国籍の子どもたちに教育を
- 困難な状況とは?

 国境付近には無国籍の子どもたちが多くいます。タイ人の子どもたちへの支援は広まってきましたが、移民労働者や少数民族といった外国籍あるいは無国籍の子どもたちは、困難な環境に置かれています。タイの学校に行くことのできる子もいますが、そうでない場合もあります。シーカーでは、移民の子どもたちも学校に通えるように奨学金制度を設けています。

 例えばタイ北西部のミャンマー国境付近のターソンヤン地区は、シーカー・アジア財団の活動地域の一つですが、この地区にある7校の学校教員たちと連絡を取り合い、必要とする子どもたちに奨学金を支給しています。ただ、私たちも支援が必要な子どもたち全員をサポートできるわけではありません。選考で落とさざる得ない人たちもいるのが残念でなりません。

 タイ人であっても親が収入の安定しない農業などに従事していて経済的に困窮すると、子どもは家族のために働き、海外に出稼ぎに行く場合もあります。タイはすでに中進国になって久しいですが、そういう子どもたちがいることを知ってほしいと思います

- 学生時代に働いた後、いったん日本に戻られたのですね。

 1年半仕事をして、その後修士論文を仕上げるために復学したのですが、その間にコロナ禍に突入し、半年の滞在予定が3年以上になり、財団での仕事も立ち消えになってしまいました。論文のテーマにも以前のように興味を持てなくなり、今後進むべき道を思い悩んでいたところ、またしても秦先生から声をかけていただきました。クロントイ・スラムは移転問題に直面しており、それを見届けたいという気持ちがありましたし、腰を据えて活動していこうと心を決め、再度タイに来ることにしました。

- 現在の仕事は?

 以前と同じ国際部に所属していて、日本から来る支援者やボランティアの受け入れに関すること全般がおもな業務で、支援者に対する報告書の作成など支援者と財団を繋ぐ仕事も担当しています。

昨年の日本人会チャリティーバザーに出店。クロントイ・スラムの縫製工房で製造しているFEEMUEブランドの商品を紹介
北西部ターク県ターソンヤン郡で家庭訪問した家族と同郡にある支援先の学校
本をとおして世界を知る機会を
- 図書館活動も活発です。

 本をとおして外の世界に触れることができるように図書館活動にも力を入れています。クロントイ・スラムの私たちの事務所の中にコミュニティー図書館がありますが、それ以外にも遠隔地で暮らす子どもたちのために専用車両に本を積んで訪問する移動図書館活動を行なっていて、バンコクのスラム地域とサムットサコーン県を巡回しています。コロナ禍前まではタイ北西部のターク県の山間地やミャンマーからの難民が何万人も住んでいるメラ難民キャンプでも活動していました。

- 力を入れたいことは?

 無国籍者の支援です。行政や学校によっても異なるのですが、国籍のない移民の子どももタイで中学までは行くことができます。しかしそれ以上は閉ざされています。勉強をしたくてもできない子どもたちがいるのです。ですから国籍を取得するまでサポートできるようにしていきたいと思っています。

 シーカー財団の図書館に10歳のときにカンボジアからタイに来たスタッフがいます。公的な書類が揃えられず公立学校には行けなかったのですが、近隣の財団が運営するラーニングセンターに通っていました。欧米人の先生から英語も学んでいて、ある程度できるので、日本人学生ボランティアが来たときには間に入ってくれます。いずれは高校で勉強して仕事をしたいと希望しています。そういう子どもたちを間近にみているので、サポート体制の必要性を強く感じています。

子どもの日にクロントイ・スラムで行われたイベントで
ミャンマー国境付近のメラ難民キャンプでの移動図書館活動
- メッセージを。

 NGOは支援者さんから寄付をいただいて活動しています。日本からの援助に依存しており、タイ国内からの支援が少ないのが現状です。そこでこの地域と私たちの活動を知っていただくために、年に5〜6回クロントイ・スラムツアーを行なっています。

 FEEMUE(フィームー)ブランドをご存知の方も多いと思います。少数民族の刺繍を洗練された感覚でデザインしたバッグやアクセサリーを、クロントイ・スラムにある私たちの縫製工房で住人の女性たちが製造しています。このFEEMUEのインスタグラムでクロントイ・スラムツアーを告知していますので、ご興味のある方はぜひ参加してください。

- ありがとうございました。
FEEMUEインスタグラム/FEEMUE Klong Toey (@feemue.klongtoey)

取材・文/ムシカシントーン小河修子 写真/山田大貴さん提供
Copyright © Japanese Association in Thailand. All Rights Reserved.