タイのお菓子は二度おいしい
連載
79
透明なシロップの中で泳いでいる白い半透明のゼリー。つるんと丸みを帯びてクラゲの頭のようにも見えるその正体は、オウギヤシ(タイ語で「ターン」)の胚乳です。
ルークターン・ローイゲーオ
オウギヤシの実をたっぷりのシロップで味わう真夏の涼味

オウギヤシは名前のとおりヤシの一種ですが、実はココヤシより小ぶりで、皮の表面は熟すにつれ黒くなります。厚い皮の内部の胚乳をタイ語で「ルークターン」と言い、若いうちは半透明のゼリー状。ナタデココとはまた違った歯触りで、寒天よりはややかため。かすかに甘くて、特徴的な味や香りはなく、強いて言えばココナッツジュースの風味でしょうか。

「ローイゲーオ」はシロップに浸した果物のデザートのことで、さまざまなフルーツで作りますが、レストランでよく見かけるのはライチ、サラカヤシの実(サラ)、サントール(グラトーン)、近年人気のマヨンチット、そしてこのルークターンです。果物の種類によって作り方は異なりますが、たいがいはまず塩水に浸して、その後シロップに浸けて一晩ほどおき馴染ませてサーブします。果物とシロップのバランスと甘さ加減はフルーツの缶詰に近いかもしれません。缶詰と異なるのはシロップに塩をきかせていること。ただしルークターンの場合は塩を加えず、白砂糖のプレーンなシロップか、パームシュガーやココナッツシュガーを加えたコクのあるシロップで煮ます。

オウギヤシの実。中に胚乳(ルークターン)が入っている
隣国カンボジア・シェムリアップ州で、オウギヤシの実をさばきながら売っていたルークターン。熟していてポクポクした歯応えでした
作り方はいたって簡単。水に砂糖を加えて煮溶かして好みの濃さにしたら、ルークターンを入れて火を通し冷やすだけですが、意外に手間がかかるのが表面の薄皮(と言ってもけっこうな厚みがある)をむく作業です。それでなかなか手が出なかったのですが、あるとき、一晩冷凍庫で凍らせたものを水に浸けて解凍すると、ナイフ要らずでむけることを知り、それならと試してみたところ、なんなく手でむくことができました。
一晩冷凍庫で凍らせたルークターン。写真は露店で買ったものですが、先日エムクオーティエのスーパー内で売っているのを見かけました。若いルークターンの収穫の最盛期は真夏の4〜5月頃
冷凍庫から出したら水に浸けて解凍
解凍したルークターンは皮を手でむくことができます(半解凍でも可)
ルークターンの内部は袋状。中のエキスをシロップに加えます。中に水分がない場合は収穫してから時間が経っている可能性があるそうです
さて、薄皮をむいたら、次に食べやすい大きさに切ってシロップで煮ます。ルークターンの内部は袋状で透明な液体が入っているので、それをボールに受け止めて、シロップに混ぜるといいというレシピもあります。また、シロップに別に用意したココナッツジュースを加える方法もあるようです。煮る時間は作り手によって様々で、一般家庭用の簡単なレシピでは5分から30分、専門店では4時間というところもあり、味わいも食感もそれぞれ異なると思いますが、ルークターンは生で食べることもできるものなで、私は7〜8分にしてみました。
タイのお菓子の香りづけや色づけのためによく使われるパンダンの葉(バイ・トゥーイ)。シロップに香りをつけるために、ゆわえて一括りにして水に入れ、しばらく沸騰させてから取り出して、その後砂糖を加えて5分ほど煮たシロップに、ルークターンを入れて7〜8分煮ました
ルークターン・ローイゲーオが完成。ジャックフルーツをトッピングしました

出来上がりは、写真のとおり。さらりとした仕上がりのシロップに、穏やかな風味のルークターンはさっぱりしていて、痛いほど陽射しが強いタイの暑季にうれしい味わいでした。参考にしたレシピに従って、シロップを作るときに砂糖を加える前にパンダンの葉を入れて煮出したので、タイ菓子らしい香りも加わったルークターン・ローイゲーオを、市場の人御用達の雑貨店で見つけたガラス器に盛りつけて、素朴な冷たいデザートを堪能しました。

 

熟す前のルークターン(ルークターン・オーン)の収穫期は4〜5月頃ですから、試すなら今がチャンス。市場や露店の他にスーパーマーケットに並ぶこともあります。

文・写真/ムシカシントーン小河修子
Copyright © Japanese Association in Thailand. All Rights Reserved.