タイのお菓子は二度おいしい
連載
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カオファーンピヤック
ねっとりプチプチ
五穀のひとつ粟の触感を味わう
秋が深まると食べたくなるものは数知れませんが、そのうちのひとつが粟ぜんざいです。ぽってりした艶やかな餡にねっとりプチプチの粟。ほんのり赤みを帯びた黒い小豆餡と黄色い粟が塗りのお椀によそわれた様は美しくて、味わう前から満たされた気分になる温かい甘味です。
その粟をタイではカオファーンピヤックというお菓子などにして古くから食してきたことを知ったのは、タイのテレビ番組でした。近所で探したのですがなかなか出会うことができず、番組で紹介されたノンタブリー県の市場内にあるタイ菓子店に車を走らせました。台の上にお菓子を載せて売るこぢんまりした店ですが種類は豊富で、目移りしつつも目的のカオファーンピヤックを購入しました。
日本ではクチナシの実で粟を黄色に色づけることが多いのですが、こちらの店ではパンダンの葉(バイ・トゥーイ)で色と香りをつけてきれいな緑色。タイらしさを感じます。粟はほどよい甘さに炊かれてねっとりプチプチ。お好みで塩味のココナッツミルクをかけていただきます。番組の中で店主は「何度も水を替えてしっかり洗うことが大切」と話しており、それは雑穀臭を除くためだそうです。たしかに雑味のない味わいでした。栗は餅粟。粟にはうるち粟と餅粟があり、お菓子に使われるのはタイも日本も餅粟が多いようです。
粟は直径約1.5ミリ。
先祖は雑草のエノコログサ(ネコジャラシ)だとされているそうです
今回記事を書くにあたって粟のことを調べていたら、『事典 和菓子の世界』(中山圭子 岩波書店)の中に江戸っ子に人気を博した粟餅屋の話を見つけました。江戸時代の類書(百科事典)『守貞謾稿』によると「歌声とともに餅を搗きあげ、できた餅をむんずと手でつかむなり、指の間から四つの団子にし、六~七尺(約二メートル)離れた盆中に投げ入れたという」とあります。このパフォーマンスは評判をよび、歌舞伎にも取り入れられたそうです。
粟は稲より早く日本に伝来し、縄文時代にはすでに栽培されていた穀類。長きに渡り日本人の胃袋を満たし、江戸時代には庶民のお菓子として親しまれていたのでしょう。日本でもタイでも粟のお菓子が少なくなっているのは残念なことです。
文・写真/ムシカシントーン小河修子
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