タイのお菓子は二度おいしい
連載
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マトゥーム・チュアム
ベールフルーツの甘露煮は、
見かけはレンコン、食感はイモ甘納豆
マトゥーム・チュアムมะตูมเชื่อมはベルノキの実ベールフルーツの甘露煮。
砂糖を徐々に足しながら長時間煮るうちに深い橙色に。砂糖を結晶化させていないしっとりタイプもある
深みのある柿色に吸い寄せられて、円い甘露煮を半キロも買ったのは、バンコク北郊の朝市でした。マトゥーム・チュアムと書いてあるけどハス根ですよねと尋ねると、レンコンはもっと細いでしょと店主。

マトゥームはミカン科の植物ベルノキの果 実ベールフルーツ。タイではハーブティーとして用いられることが多く、マッサージ店で出してくれる橙色系のお茶と言うとピンとくるかもしれません。

輪切りのレンコンのような甘露煮は、食べてみるとサツマイモの甘納豆のような食感。かすかに陳皮に似た香りがして、かろうじて
果物であることを主張しますが、断然イモです。甘さは存外穏やかで、直径8センチ、90グラムの一切れを二つ平らげてしまいました。

次にマトゥームに再会したのはカンチャナブリー県の土産物市場でした。店先につるしてあった生の果実に触ると硬くて、皮というより殻。熟すほどに表皮が硬くなる性質があり、ハーブティーは若い実を皮ごと輪切りに、甘露煮はやや熟した果実を使うので山刀でむくそうです。
マトゥームの果実と乾燥ハーブティー。実がまん丸い種類もある。
旬は12〜2月だが、市場の店主によると7月まで出回っているとのこと
甘露煮の工程は思いのほか煩雑です。皮をむいて輪切りにしたら水に浸けて大量のヤニを洗い流し、種を1粒ずつナイフで切り取る。煮くずれを防ぐために石灰水の上澄みに浸けおきし、それを下茹でしてから水に浸け、その後ようやく砂糖で煮る工程に。バンコクの老舗は、砂糖を足しながら7時間は煮ると動画で語っていました。

ベルノキはインド原産で、古代インドの長編叙事詩ラーマーヤナにも登場する植物です。ウィキペディアによると、魔王にさらわれたシータ姫を探すラーマ王子が「おおベルノキよ……汝の果の如く丸々として絹めいた胸の者を見かけたらば余に伝えよと口走る」という一節があるというので、和訳の『ラーマーヤナ』を開いてみたのですが、4万8千行の詩を散文にした抄訳本にその記述を見つけることはできませんでした。ラーマーヤナは東南アジア全域に広がり、タイでは古典文学ラーマキエンになりました。さて、件の胸の一節はタイ版のラーマキエンにあるのでしょうか。持ち重りのするマトゥームと姫君の胸との関わりをしばし考察したのでした。

※1ナムプーンサイ。タイでは料理によく用いられる
※2『ラーマーヤナ』河田清史訳 レグルス文庫 第三文明社
文・写真/ムシカシントーン小河修子
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