タイのお菓子は二度おいしい
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カノム・レーライ
「レーライ」は蝉の名
もつれた糸のような姿の米粉菓子です
カノム・レーライขนมเรไร。レーライは蝉の一種。学名Tosena melanoptera
 ほどいた毛糸をまるめたような愛らしいお菓子です。削ったココナッツをのせ、半ずりの白ゴマ砂糖と、軽い塩味のココナッツミルクをお好みで。細い糸状の麺の繊細な舌ざわりとゴマの香ばしさが身上です。

 主材料は米粉。タピオカ粉や葛粉のような役割を果たすタシロイモ粉を混ぜています。粉類を火にかけて煉り、ひと口大にまるめて、専用の道具ピムゴットカノムレーライで細く押し出して蒸すのですが、この道具は羽子板を2枚、上部でつないだようなつくりで、一方にまるめた米粉をのせる台が、もう一方には細かい穴を開けた金属板がつけてあり、閉じると生地がそうめん状になって出てくる仕組みです。

 米粉が押し出されるときに耳を澄ますと、音が聞こえると教えてくれたのはタイ菓子店のベテランの店員さんでした。「どんな音?」と聞くとひと呼吸おいて「チィッというかイーッというか…。蝉の鳴き声に似ているから“レーライ”という名前がついたという説があるんですよ」と教えてくれました。タイにはユニークな名称のお菓子が多いけれど、音が由来というのは初めて。レーライは蝉の一種で、日本には生息していない種類ですが、和名はキオビアブラゼミ。動画を見ると、少し緑がかった濃茶の上翅と黒い頭部にクリーム色の帯が一本ずつ。胴体はオレンジ色で、よく鳴く蝉だそうです。カノム・レーライにはカノム・ランライという別称もあって、こちらは形が巣(ラン)のようだからとか。
ひと口大の生地を木の台(円柱状のでっぱり)の上にのせて閉じると、金属の穴から押し出されて糸状に
 このお菓子はジャスミンの香りが大切な要素で、花を浮かべて香りを移したジャスミン水で粉をこねるレシピもありますが、今回求めた店はジャスミンのつぼみを一輪、お菓子の上に乗せて、香りをまとわせていました。包みを開けるとふわっと漂う生花の香り。白いつぼみは楚々として可憐です。

 カノム・レーライは200年以上前に皇太子時代のラーマ2世が書いた詩にも登場する伝統菓子のひとつです。
文・写真/ムシカシントーン小河修子
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