手提げ袋から取り出したのは、ザラ紙にくるんだ春巻きサイズの包みでした。まだほんのり温かい。長い行列に並んだ末に手に入れたのだと友人は言います。輪ゴムをはずして開くと香ばしい落花生のにおい。飴をつなぎに粉状の落花生をまとめたようなお菓子で、つまむとくずれそう。急いで口に放り込むと、ほろほろした飴がほどけて口中に広がり、あっという間に完食。
存分に食べてみたい願望をかなえたのは翌年でした。というのは友人が買いに行った老舗「ラーン・トゥップタップ・ラオペ(老字號)」は年に一度、ギンジェー(菜食週間)の期間だけ営業する店だからです。その年は間に合わず、1年待ってようやく購入できたのでした。
老舗といっても露店で、落花生飴ができあがるまでの一部始終を、行列しながら眺めることができます。作り方は以下のとおりです。砂糖と水と水飴を強火にかける。飴状になったら、炒り落花生を加える。バットに移して一呼吸おきやや冷めたら、木製の机にあける。温度と粘り具合を見計らって、杵を持った2人の男たちが向き合って交互に杵を振り下ろす。力加減は餅つきより強烈で、ダンダンダンダンッと威勢がいい杵の音は秒速のスピードです。落花生が砕けて粉状になり飴と渾然一体になると、次のテーブルに送り、長い角棒2本を使って形を整え、切り分けてザラ紙に包みます。
今年のギンジェーは10月3日〜11日。菜食メニューを提供する飲食店やスーパーマーケットの特設コーナーは「齋」と印刷された黄色い旗飾りで賑わいます。もともとは中国系タイ人の慣習でしたが、近年はルーツに関わりのない人たちにも拡がり、端倪すべからざる経済効果をもたらしているそうです。
同じ路地奥の中国神社Chow Sue Kong Shrineに出店の別の店では、つき手は東北地方北部のブンカーン県から。ギンジェーが近づくと毎年声がかかるそうです。トゥップタップは行事食に特化されているわけではなく、市販の袋入りなどが通年販売されています。
文・写真/ムシカシントーン小河修子