タイのお菓子は二度おいしい
連載
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カノム・グリープラムドゥアン
真夏に木に咲く小花をかたどったソフトクッキー
3片の花びらの真ん中に小さな玉を抱いた愛らしい姿のカノム・グリープラムドゥアンは、タイ語でラムドゥアンの花びらという意味のお菓子で、カノム・ドークラムドゥアン(ラムドゥアンの花)ともよばれています。 コロンとした中央の玉は花芯のように見えますが、実は内向きに丸くおさまっているもう3枚の花びらを模していて、実物の花も同じユニークな形をしています。ラムドゥアン(学名:Melodorum fruticosum Lour.)は樹高が10メート以上になるモクレン目バンレイシ科の高木で、タイでもっとも暑い3月〜4月ごろに直径2センチほどの小さなクリーム色の花をつけ、開花時期を迎えると涼し気で甘い香りが辺り一帯にたちこめるそうです。
ラムドゥアンの花。直径約2センチの小花 www.dmc.tvより
 
カノム・グリープラムドゥアンは、小麦粉と砂糖と油だけの卵は使わないソフトクッキーで、口どけのよさが身上です。粉と砂糖両方の質感を残したこのクッキーは、細かい白砂のひとかたまりが波に洗われて消えるように、すっとほどけていきます。独特の食感のコツは「粒の細かい砂糖(グラニュー糖)と小麦粉を混ぜ合わせて、少しずつ油を加えながら力を入れずにやさしくこねる」ことと、老舗菓子店の店主がテレビ番組で語っていました。
いくつかのレシピを当たってみたところ、おおよそ小麦粉4に対して油が1ですから、かなり油分が多いと言えるでしょう。油はラード(豚脂)を使うと香ばしいと、タイ料理界の重鎮とおぼしきおばあちゃん先生がレシピ集で指南していましたが、おそらく現在は市販品の多くが植物油で作られているのではないでしょうか。植物油の場合はパーム油を使うと焼き上がりがべたつかずさっくりするそうです。
次に形成です。クッキーの生地をひとかたまりにまとめたら、直径15ミリくらいのボール状に丸めて、四つに切り分け、うち3片を円形に置いて残りの1片を小さく丸めて真ん中にのせて、玉に3本の切り込みを入れて花びらを表現します。それを低めの温度(120℃〜180℃としているレシピが多い)に予熱したオーブンに入れて白く焼き上げます。撮影したカノム・グリープラムドゥアンは軽く焼き色がついていますが、白く焼き上げるのが王道のようです。しかし最近は様々な色に着色されていることも多く、今回購入した店のものも真ん中の玉は薄いピンクでした。
 
小麦粉と砂糖を油でこねてカノム・グリープラムドゥアンを作ってみました。この後、中央の玉の上に3本の切り込みを入れてオーブンに。
今回購入したカノム・グリープラムドゥアンは、中央の玉が淡いピンクに着色されていました。
香りづけのローソク「ティアンオップ」は、カノム・グリープラムドゥアンに欠かせないアイテム。焼き上がったクッキーとともに両端に火をつけてから消して煙が出てている状態でフタつきの容器に入れ、燻して香りを移します。

 
このお菓子の風味の特徴をもうひとつあげるとすれば「ティアンオップ」の香りでしょう。ティアンオップは様々な香りの成分を蜜蝋に練り込んだ、両端に灯芯のあるU字形のロウソクで、これに火をつけ煙で燻して菓子に香りをつけます。ジャスミンなどの花のエッセンスとともにリュウノウジュ(学名:Dryobalanops aromatica)というフタバガキ科の樹木から抽出される竜脳が含まれているのですが、竜脳は墨やお香などに使われる成分で、樟脳(防虫剤として使われてきた。クスノキから抽出される)に似た香りなのですから、日本人にとっては食べ物と結びつきにくく、ちょっと苦手という方も少なくありません。
さて、ラムドゥアンと言えば東北地方南部のシーサケット県。県花にも指定されており、花が盛りの3月にテッサガーン・ラムドゥアン・バーン(ラムドゥアン開花祭り)というイベントが行われ、今年も3月17日から21日に開催されました。会場は5万本のラムドゥアンの木がある広大なソムデット・プラシーナカリン公園。花の香りに包まれた公園で、時代絵巻のような音と光のページェントと民俗芸能・伝統文化がショーアップされて演じられる他、出店も賑わい、シーサケット県に暮らす主要な4民族、ラオ系・クメール系・クーイ系・ユー系の人々の食と手工芸品に出会うことのできるお祭りです。なお、シーサケット県と国境を接する隣国カンボジアの国花ロムドゥオルはクメール語でラムドゥアンのこと。彼の地では美しい女性を例える花でもあるそうです。
テッサガーン・ラムドゥアン・バーンのポスター。
昨年のポスターの右上にはラムドゥアンの花があしらわれていました。
 
愛らしい姿で香りのいい花をつけるラムドゥアンは、古くからタイの人たちに愛されてきた身近な樹木でした。以前はお菓子の香りづけにも用いられていて、タイ菓子の本によると、焼き菓子のカノム・ピンや煉り菓子カノム・サンパンニーなどをラムドゥアンの花とともにフタつきの容器に入れて香りを移したそうです。カノム・グリープラムドゥアンが本物のラムドゥアンの花で香りづけされることがあったのか言及されていませんでしたが、そんな一文に誘われて一昨年、苗木を買い求めました。50センチに満たない小さな木が花をつけるには何年もかかりそうですが、その日を楽しみに水遣りに勤しんでいます。
文・写真/ムシカシントーン小河修子
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