グラヤーサートกระยาสารทはグルアイカイというバナナと相性がいいとされている。一緒に食べるとゴマとナッツの香りが滑らかなバナナと溶け合って口中に広がった
グラヤーサートは見た目も味わいも日本の「おこし」によく似ているお菓子です。おもな材料はカオマオ、カオトーク、落花生、ゴマ。カオマオは熟しきらないうちに収穫した米のことで、グラヤーサートには煎ったもち米のカオマオが使われます。カオトークはポン菓子で、籾米のまま煎ることによって籾の内圧を高めて弾けさせるポップライス。これら材料に砂糖やヤシ砂糖の糖蜜を加えて形づくったグラヤーサートは、香ばしさとおこし特有の食感が身上で、ココナッツミルクが入っているため、日本のおこしよりもコクがあります。
日本のおこしの歴史は古く、元々は遣唐使が伝えた唐菓子の一つ粔籹といわれており、江戸時代以降はもち米などの穀物を蒸して乾燥、それを細かく刻んで煎ったものを水飴や砂糖で固める製法になり、今に至っています。グラヤーサートの材料の未熟米カオマオは日本では馴染みのない食物ですが、平安時代中期の辞書『和名類聚抄』には「甘い米」として記述されているとのこと。古のおこし粔籹にカオマオが使われていたという記録はありませんが、つい想像してしまいます。
グラヤーサートは一年中店頭にあるお菓子ですが、ワンサートタイという仏教行事に欠かせないもので、19世紀中頃の書とされる『ニラート・ドゥアン』という詩の本にも「ワンサートにグラヤーサートを寄進の鉢に入れる」という一節があります。
毎年、陰暦10月の黒分第15日(今年は10月6日)のワンサートタイは、日本のお盆と同じく祖先の霊を迎えて供養する仏教行事で地方色豊か。地方によって異なりますが、祖先供養とともに施餓鬼会でもあり、プレート(※)という亡者(餓鬼)に食物などを供えて弔います。特に興味深いのが南部ナコンシータンマラート県で、供物にしても薄い紗の布のようなお菓子カノム・ラーやイヤリングなどのアクセサリーに見立てた揚げ菓子などを供えるそうです。
※プレートは餓鬼道におちた亡者。体は非常に痩せていて細く、背は見上げるほど高く、腹だけが膨れている。口は針のように小さくて食物を入れることができないために絶えず腹を空かせている。
カオマオ(右)は完全に実が熟す前の米。カオトーク(左)はポップライス(ポン菓子)。籾ごと煎って弾けさせる。籾殻がついたままの一粒が混じっていた